「……で、桝屋に入ってったっつう訳か」
報告を聞き終えた土方副長が片口を上げ、心底愉快と言わんばかりに言葉を紡ぐ。
親指の背で唇の下を擦っているのは、また何かを思案しているということだろう。
故に、俺はただ黙って次の言葉を待つ。
雨の音だけが聞こえくる静かな部屋。ぬるく湿った空気が肌にまとわりつく。
そんな梅雨特有の不快さすらも吹き飛ばす、餓えた獣のような鋭い眼が此方を向いた。
「この期を逃す訳にゃいかねぇ。だが今は何分人手が足りねぇからな、踏み込むのは手筈を整えてからだ。先ずはお前らであの辺りの旅籠をしらみ潰しに調べろ。奴らの定宿をあぶり出せ」
ことの命運は俺達にかかっとるっちゅうことか。
気が付けば副長の心が伝染したかのように俺にも薄い笑みが浮かんでいて。
こういうのを武者震いと言うのだろう。
町医をしていた時には感じたことのないそれに、我ながら少し驚く。
が、それは確かに父から継いだ乱破の血が流れているからなのかもしれない。
「承知致しました」
さぁこっからは一寸の光陰も無駄には出来んで。奴らが動く前に取っ捕まえてやんねやからな……!
そんな決意を胸に、諸士調役五人で市中を奔走すること三日。
慎重に、かつ可能な限り迅速に絞り込む中で浮かんできたのは二つの旅籠。
四国屋と、池田屋だ。


