朝方から降り始めた雨は僅かにその雨足を強め、さあさあと静かな音を町に響かせていた。
どんよりと濁った空の下、南禅寺の境内では木々達が悠然と佇む。
そして、堂々構えるその山門の楼上では肥後勤皇党宮部鼎蔵の下僕、忠蔵が生きたまま晒されている。
勿論我々の手によって、だ。
何故か桝屋に出入りする姿が何度も見られたからである。
宮部はその尊皇攘夷の思想から長州との関わりが深く、忠蔵が桝屋に出入りするということは、今回の件にも間違いなく奴が絡んでいると思われた。
久坂の足取りが掴めない今、宮部側から崩していくのが得策だという副長の判断により奴を捕らえることとなった。
……、来たか。
降り続く雨の中、縄で縛られたそいつが吊るされて暫く。
山門の下で見張りをしている原田くんと永倉くんの側に、一人の女が近寄って来るのが見えた。
一見何の変哲もない四十程とおぼしき女が、二人に何かを握らせている。
恐らく、金子。
副長の予想通りか……毎度のことながらあのお方の先を読む力には感服するわ。
自然と上がってしまう口端に、俺はゆっくりと息を吸い込んだ。
忠蔵をあえて目立つ場所に晒したのもこの為。逃がそうと画策してくるだろうと踏んでのことだ。
故に単純そうに見える二人が見張りとして置かれた。
流石副長、最高の配役やな。あとは俺らが気付かれんようついてくだけや。
逃げ込んだ先に、恐らく宮部がおる。
境内の建物に隠れた俺の視線の先で、漸く下ろされた忠蔵がずぶ濡れの姿でふらふらと歩いていく。
それを確認すると、俺もまた静かに足を踏み出した。
幸いにも笠を目深に被っても目立たぬ天候。
こっからは俺らの出番や。