この際言い訳はあとで考える。取り敢えず今はあっちや。
なるべく気取られ難くする為に口を塞いだまま、その体ごと廟にへばりつく。
ちなみにこれは夕美の身動きを封じる為でもある。
変に動かれて向こうに気付かれたら困るからだ。
「ええか、じっとしとってや」
視線は木立の向こうに向けつつ耳許で小さく囁く。
瞬間、密着しているその体がピクリと僅かに跳ねて。
……よし、ええ子や。
動かなくなったことを返事とした。
「……おい桝屋、もう此処で良いだろう。どうせ誰もおらぬ」
丁度廟の反対側。
草履が土を踏む音が止まり、どこか苛立ったような声が発せられた。
桝屋? 桝屋ってあの四条んとこにあるあれか?
「そない急かんでもよろしいやないですか、さかひさはん。まぁ別に此処でもかましまへんけど」
さかひさ……誰や?
まぁ取り敢えずえーとこで止まってくれたわ。
二人の姿を見るのを一先ず諦め、目を閉じると額を壁に付けて全神経を耳に集中させる。
「……あれの手筈はどうなっている」
「勿論万事順調にいってますえ。いつそちらはんが動いてもええよう、うちの蔵はえろう物騒なことになっとりますわ」
「……なら良い。間もなく我が藩の出兵が成る筈だ、あれは多ければ多い方が良い。今暫く調達にあたってくれ。無論、火薬もだ」
「へぇ、承知しておりますよ。ミニエー(銃の名前)ならまだ幾らか当てがありますさかいに」
「……慎重に動けよ。では話は仕舞いだ。長居は出来ん、先に行く。貴様は暫くしてから戻れ」
終始不機嫌そうに言葉を紡いでいた浪士らしき男が足早に立ち去る気配がして。
俺は僅かに顔を動かし、道の先に視線をやった。
あれは……!


