少々動きの悪い木戸を開けて中へと入る。
まだ日が落ちるまで少し時間はあるというのに随分と薄暗いのは、分厚い雨雲と滝のように降る雨のお陰だ。
長く放置していた油だったが、幸いにもすぐに火がついた。
柔らかな光に照らされた室内は多少埃っぽさを感じるものの、最後に見た時のまま何も変わっていない。
今にも襖を開けて琴尾が顔を覗かせそうな気すらする。
がらんとした部屋で目立つ物と言えば枕屏風(マクラビョウブ・布団を隠す衝立)と薬箪笥くらいだ。
東大路に程近い此処は、一年前まで住んでいた家。
小さいながらも長屋でない此処で、俺は漢方医を営んでいた。
琴尾が死んで。
当時まだ壬生浪士組と言う名前だった新選組の屯所へと身を移してからは、一度も訪れたことはない。
けれど琴尾の命日である今日、一つの区切りとして漸く置きっぱなしだった荷の整理をしようと思えた。
然程広くない此処はどこもかしこも思い出に溢れ、つい意識が過去に向かう。
折しも一年前と同じ、雨。
逢魔刻とはよく言ったもので。確かに薄暗い空は胸に闇を巣食わせた。
…………早よしよ。
そんな気持ちを振り払うように両の頬を打って。
濡れた長着を着替えた俺は、隅に置かれた行李へと手を伸ばした。
要るもの、要らないもの。
慎ましい暮らしを送っていた俺達は持ち物も少なく、分けるのに然程時間はかからなかった。
粗方分け終えた俺は、後ろに倒れ込んで一伸びする。
「はー……」
懐かしい天井が目に入り、何となく目を瞑った。
んーせやけど雨やしなぁ……薬草やらは濡れたら困るし、運ぶんはまた今度やな。
長居すればそれだけ記憶に浸ってしまう。
覚悟を決めて勢いよく立ち上がると、一つの行李にまとめた荷をまた隅に置いて。
五年の時を過ごしたそこを、再びあとにした。


