今日俺が来るだろうとよんで誰かが置いたんだろうそれを手に取る。
ほんの少し緊張した指先で紙を開くとそこに書かれていた言葉。
『 烝 進 兄弟一同 』
すすむ、すすむ……?
……って駄洒落か!
琴尾の四人の兄貴からのものらしいそれをパシリと叩いて。
不覚にも胸が熱くなった己の口を左の掌で覆った。
……もー……人がしんみりする気満々やったっちゅーのに、笑かさんとってぇや……。
なぁ? 琴尾。
段々と明るくなってきた日の光に、墓を埋め尽くす花たちは笑っているかのように花弁を広げている。
その様子に俺は改めて手を合わし、頬を緩めたままそっと瞼を閉じた。
その日の内にどうしても行きたい所がもう一つあった俺は、どこに寄ることもなく、今度は大坂街道を京へと歩く。
行きとはまた違った気持ちで歩けるのは、あの花々と四兄弟の殴り書きのような文のお陰だ。
途中、街道沿いにある茶屋で飯を食い、淀川に浮かぶくらわんか船(往来船に飲食物を売っていた小船。主に枚方地方のものを指す)の掛け声を遠くに聞きながら足早に進んでいく。
朝は日が差していた空も、京へと近付く程に後ろから濁った雲が追ってきて。
湿った風が雨の匂いを運んでくる。
漸く伏見を過ぎ、九条を越えた頃には空から大粒の雨が振りだしていた。


