伏見から船に乗り込み、淀川を下る。
夜だけに客は俺の他に数人のみだ。
月明かりが柔らかく降り注ぐ川面を、船首に提灯を付けた船が僅かな水音をたてて進んでいく。
風もない、穏やかな夜だった。
喋ることがないと、つい色々と考えてしまうもの。
過去のこと、これからのこと、様々な『もし』が次から次に浮かんでは消えていく。
時々頭を振っては月を眺め星を眺め跳ねる魚の飛沫を聞いて。
漸くそこに着いたのは東の空が薄く白み出した頃だった。
「……なんちゅー……」
早朝のまだ誰もいない時刻。
それを見た途端、思わず声が漏れ出たのは仕方ないだろう。
大小様々な墓石が並ぶ墓地の中で、琴尾の墓だけが明らかに他のものとは異なる様相を呈していた。
珍しく朝焼けが空を染めるなか、水の入った桶を乾いた土の上に置く。
細く息を吐きながらも口許が緩むのは、目の前に所狭しと置かれた沢山の花や菓子のお陰だ。
墓石にまで輪っかにした花がいくつもかけられている。
恐らく昨日のうちに家族や友垣達が供えたんだろう。
「皆早過ぎやろ……なんか俺が遅いみたいやんか」
なんて呟いてみるも、心はもやもやとしていた昨日までよりずっと穏やかだった。
チクチクとした思いは勿論あるけれど、花売りかと思うようなその光景に随分と毒気を抜かれたと言える。
「……良かったなぁ」
綺麗に磨きあげられた墓石にそっと触れ。
今日の為に用意した黄色い玉簪を花の隙間から土に差したところで『烝』と書かれた二つ折りの紙が目に入った。
……俺に、か?


