【完】山崎さんちのすすむくん



相変わらず何やら色々付いたその口を懐紙で拭ってやり。


持ち帰りに三色団子まで買った沖田くんと漸く店を出たのは半刻程経ってからだ。



「満足ですー」


……うん、そらあんなけ食うたらな。俺、見てるだけで気持ち悪なったもん。


ほくほくとした笑顔で腹を擦る大きな子供に、密かに口許を押さえて視線を逸らした。


かねてからの所望だった上方言葉の教示をしながらの帰り道。


屯所のある壬生の辺りは、棒天売や屋台なんかで賑やかだった四条河原とは違い、人通りも少ない。


畑が広がっていたり、小さな童が元気に遊んでいたり。


なんとなくほっとする雰囲気だ。


今日は風もなく暖かな日差しが降り注いでいて、麗らかな春の日と言うに相応しい。


「今日は暖かいですねー、こんな日は非番で良かったと心底思います」


やはり考えることは皆同じなのか、沖田くんの声も弾んでいる。


「そうですね」

「あ、よく見れば桜の蕾も大分膨らんでますよ。もうそんな時期なんですね」


と、沖田くんが通りかかった壬生寺の葉もない枝を仰ぎ見て。


つられるように上げた目を、そっと細めた。


少しふくよかに丸みを帯びた蕾は、今年も咲き誇るのを今か今かと待っているんだろう。


鮮やかに咲き、儚く散るのを。


……もうすぐ一年が経つんか。


すっと、心が冷える。


辺りを照らす春の日差しも、もうただの眩しい光だ。


長いようで短い、多くが変わった一年だった。


一年前は今こうして此処にいることなど考えてもいなかった。


琴尾が居なくなるなど……微塵にも思っていなかったのだから。


蕾の向こうの淡い花弁を脳裏に浮かべ、また胸の奥がひりひりと疼く。


無理に瘡蓋を剥がせば再び血が出るのと同じように。


きっと俺はこれからも春を迎える度に、消えない瘡蓋を掻きむしるのだ。




「……さん、山崎さん?」