再び表情を隠した斎藤くんが真っ直ぐな瞳で俺を見据えた。
ざわりと背中が粟立つ。
だがその獣の殺気に隠れて、別の何かが瞳の奥で微かに揺らめく。
……そーか。
冷静な斎藤くんに垣間見えたそんな意外な一面に、ふっと口端に浮かぶ笑みは隠せなかった。
「……何者、と言われましても私はただの諸士調役兼監察を任された新選組の一隊士です」
そして同じく眼で伝える。
「まぁ強いて言うなら兼副長付き、といったところでしょうか」
俺の土方副長に対する忠誠を。
普段から斎藤助勤が副長に心酔しているのは火を見るよりも明らかだ。
故に俺の存在は彼にはどう映ってるんかとは思とったけど……。
視線を交わして数瞬。
その静寂を破ったのは斎藤くんだった。
「……そう言うことにしておきます」
口許に浮かぶ微かな笑みはこの人の中では最上級だ。
途端に縄がほどかれたようにスッと空気が軽くなる。
「あのお方が傍に置いているのなら貴方はそれだけの人物なんでしょう」
土方副長への絶対なる信頼。
こん人は本気で俺を疑っとった訳やない。
沖田くんと比べたらもっそいわかりにくいけども、ただの興味や。
打ち合いで相手を知りたいとは如何にも斎藤くんらしい。
「それは少々買いかぶりですが……努力はしますよ、斎藤助勤に心配をお掛けする訳にもいきませんしね」
立場は違えど俺らは同じ人を尊敬する者同士。
信用されるに越したことはないしな。
そうこうしているうちに、入り口辺りからわいわいと人の気配が近付いてくる。
稽古の時刻だ。
「では、またいつか手合わせ願います」
そう一礼して、俺は定位置である稽古場の隅に足を向けた。
「あぁ、山崎さん」
しかしその声に呼び止められる。
「寝癖、ついていますよ。では」
……では、ちゃーうっ!
今言われたらもっそい気になるし!
今朝はバタバタしたからな……糞ぅ原田くんめ。
なんて思いつつ朝稽古中面を被り続けた俺は、一部の隊士に益々不気味がられる羽目になる。


