そう声を掛ければ部屋をあとにしようとしていたその足が止まる。
決して振り向かない。
だがそれで良かった。
それがうちの父親なのだから。
僅かに横目で向けられた視線に俺は深く頭を下げた。
「この山崎烝、まだ未熟な身では御座いますが父上の名に恥じぬよう日々鍛練を重ね努力して参る所存に御座います。必ずや乱破としての務めを果たしてみせます故、どうか今暫くその広い御心で見守って頂きたくお願い申し上げます」
これだけは今言っておかねばならない気がした。
今しか、言えない気がした。
医師に生きようとも、乱破を選ぼうとも、名を変えようとも、この人は俺の父。
今はまだその大きな背には遠く及ばないものの、いつか一人前と認めてもらえるよう、その決意を聞いていて欲しかった。
全てにおいて尊敬する父に。
「…………ふん、たまには君江に文の一つも寄越せ」
少しの沈黙のあと、そんな呟きのような声が部屋に静かに響いて。
顔を上げれば既にその姿は屋根裏に消えたあとだった。
……おとん。
「部屋から出んのにおとんが上がるん久々やで。ありゃ照れたな」
「……うん」
「ま、俺もすーちゃんに負けんよう頑張るし、こっちは任せとき」
正座のままニッと笑うお兄は何故かいつもより頼もしく見えた。
「頼りになる兄貴やん」
「せやろー誉めて誉めて」
「あとは早よう嫁さんもろておとんらを安心させたってくれや」
「すーちゃんより可愛い女子が現れたらな」
……訂正、やっぱただの変態やったわ。
「冗談や。んな顔すな」
お兄が言うと冗談に聞こえんさかいな!
「大丈夫や、お前にゃ負けん」
全身を激しく粟立てていればお兄が珍しく強気に口角を上げる。
その言葉は不思議と安心感を持って俺の中に入ってきた。
「俺かてお兄にゃ負けん。てか元々俺のが優秀やし」
そんな事実すら霞む程に。
「……すーちゃんのいけず」
「冗談や。頼りにしとる」
「すーちゃん! よっしゃ! 俺頑張るっぐぇ」
「抱きつこうとすんなこの変態っ!」
あかん、やっぱり心配や……。


