【完】山崎さんちのすすむくん


穏やかに紡がれた名が擽ったい。


「……おぅ、……ただいま」


何だかんだで心配してくれていたと思えるその言葉に胸が温かくなる。


そりゃ、そうか。帰って来たん琴尾の葬式ん時以来やもんな。


文は送ったけど新選組に入ったって事後報告しただけやし。


心配、するよな。


なんて、申し訳なさを感じていれば不意に木刀を押す力が弱まって。俺もまた刀を引いた、


……のだが。



「相手が得物下げとらんのに気ぃ抜いてどうすんねんボケ!」

「でっ!?」


そんな言葉と共に頭に木刀が降ってきた。


「ーーっ!!!」


くうぅっ!! 痛いっ! 酷いっ! 卑怯やないかいっ! それが久々に会うた子に対する仕打ちか!


てか危険や危険! 刺さっとる! まだ鍼刺さっとるからな!? めり込んで取れんくなったらどーすんねんっ!!


「ふん、もっと早よう帰ってこい阿呆。さっさ入れ」


涙目でしゃがみこむ俺を他所におとんは土間へと消えていく。


……変わっとらんなぁ。手厳しい親父やでほんま。


それでも向けられている愛情は伝わってくるから。


鍼を抜いて立ち上がり、痛む頭を擦りながらそのあとに続いた。


戸をくぐればさっきはなかった行灯の明かりが僅かに板間を照らしていて。


「お帰りなさい、すーちゃん」


これまた懐かしい呼び名で俺を呼ぶのはうちのおかんだ。


「……只今戻りました」

「ふふ、早うお上がり。あー見えて五郎左衛門さんも帰ってくるん待っとったんよ? 今かて飛び起きはってんから」

「ん、わかっとる。お兄は?」

「さーちゃんはまだ寝てはると思うけど」


……そっちも鈍さは健在か。


呆れる俺におかんはにこりと笑ってゆっくりと歩き出した。


「琴ちゃんに会うてきたん?」

「……ん」

「そう。ほな今お布団用意するさかいに、今日はもう寝」


それ以上は何も言わず、ただ柔和に微笑むおかんに漸く一息つけた。


「ん、有り難う」




懐かしい我が家の匂いに安心したのか、ただただ疲れていたのか。


その晩は目を閉じるとすぐに意識が落ちていった。



実は印堂が不眠にも効くということは俺は知る由もない。