龍臣が疲労感を感じていると、あずみが心配そうな声を出した。

「龍臣、顔色が悪いわ。少し休んで」

腕に温もりを感じ、あずみがソファーへ引っ張って行こうとするのを感じる。

「ありがとう、あずみ」

龍臣に感謝されて、あずみは「えへへ」と照れ笑いした。

「あずみは、どんな過去があるんだろうね」

龍臣がポツリと呟くと、ソファーの隣側が微かに軋む。あずみが隣に座ったのだろう。
隣を見つめるが、龍臣にはやはりその姿は見えなかった。

「さぁね。何も覚えていないからわからないわ」

その声はあっけらかんとしている。
無理しているようでも、悲しんでいるようでもない。
本当にわからないのだろう。

「本当に何も?」
「いつもいつもそう言っているでしょう? 本当に昔から疑り深い人ね」

あずみはクスクスと笑う。
それに対して、龍臣は悲しげに微笑んだ。

『いつもいつも』

あずみはそう言ったが、これを聞くのはまだ数回しか書いたことがない。『いつもいつも』と言われるほど聞いたことがないのだ。
そして、『昔から疑り深い』とは誰のことだろう。
自分はそう言われるほど疑り深い性格はしていないはずだ。しかも昔から、だなんて。
他の誰かと間違えているのではないだろうか。そう感じることがある。
あずみは時々、覚えていないはずの記憶が今と混同するようだった。