「~だから筆者の考えは、…、」
「…っ、ふぁ、‥っ、」
零れる欠伸を手で隠してやり過ごす私。
どうにも3限の現代文は眠すぎて困る。
ちゃんと板書だってしているけれど、眠たいせいで字はぐちゃぐちゃ。
もう眠いものはどうしようもない。
頭がカクンカクンと揺れては、起きての繰り返し。
その時、クスッと小さな笑い声がして、一瞬意識が現実に戻った。
「‥?」
誰か、今笑った…?
頭にハテナマークを浮かべる私。
チラリと隣を見ても、王子様はその綺麗な顔で真剣に授業を受けていて。
‥あれ、…?
「‥、」
思わず横目で王子を凝視してしまう。
ほんの少しだけ、王子の口角が緩んでいるような気がした。
それでも王子様はポーカーフェイスを崩さない。
真顔がそんなに綺麗だなんて、世の中は本当に不公平だと思う。
「じゃあ、この問題を…。えー、と、じゃあ遙さん。」
「っ、は、はいっ?!」
ガタンッ、と席が揺れる。
焦って勢い良く返事をしたせいか、少し声が裏返って、クラスメイト達にクスクスと笑われた。
私の耳はたちまち赤く染まる。
でも隣の王子はポーカーフェイスを崩さない。
「返事は立派だけど、今聞いた質問答え
分かる?」
「へっ、‥え、えっと、…。」
そう呟いて口ごもる私。
質問なんてそんなもの、聞いても居なかったから、答え何てちんぷんかんぷんだ。
「まさか、聞いてなかった何て言わないわよねぇ?」
「…っ、‥、」
この現代文の女の先生は、いつも嫌みを言ってくる様な言い方だから答えづらい。
「…えっ、‥と、…。」
言えない。聞いてなかった何て。
教師が眼鏡の奥から、一重の瞳で私を捉えている。
チラリと視線を移せば、軽く舌を出していたずらっ子の様に笑う玲の顔。
「‥っ、」
余裕って顔して、そんな玲に苛立ちが募った。
“知ってるなら教えてよ。”そう言いたいのに言えない。
────カサッ、
「…え、‥?」
突然小さな紙の擦れる音がして、机に視線を移せば小さな紙切れ。
そこには丁寧な字で、
問題の答えであろう文が書かれていた。

