「別に、…ご執心とかじゃないよ。」
何て呟きながら視線をさまよわせて、ふと一点に視線が止まる。
彼女がいる。
反対の席には去年も同じクラスだった栗栖玲も。
ぼんやりと眺めていたら、突然栗栖の頬を引っ張りだす彼女。
それに驚いて目を見開く、と同時に思わずくくっ、と笑ってしまった。
「…‥へぇ、」
「ん、何かあんの、秋。」
「別に、何もないよ。」
「そうは見えないけど?」
何て呟いて、笑う僕の視線を追う泉。
その泉の目が軽く見開いた。
「‥千秋、‥?」
「…、」
めったに驚かない筈の泉も驚く位だから、本当に彼女は千秋に似てると思う。
千秋は僕にとって、色んな意味で忘れられない存在だ。
その理由を知っている泉は、奥の席の彼女を食い入る様に見つめている。
僕はわざとらしい咳をしてみせて、泉の注意を引き戻した。
「似てるよね。‥でも別人。」
そう呟いて、ふい、と視線を逸らす。
それでもチラリと泉の視線は、彼女を捉えて離さない。
「本当に別人?髪が短くなった以外はほぼ千秋じゃん。」
「見た目はね。名前も全然違うよ。」
彼女の名字は“遙”
千秋は“山下”
「…もしかして、お前がご執心なのって、あの千秋二号なの?」
「二号って言うのは止めてよ。」
そう言って呆れた様に溜め息を零す。
「確かに顔は似てるけど、‥全く千秋とは違うんだよ彼女。明るくて、見ていて楽しい。」
そう呟く僕を見つめて、泉は「へえ。」と声を漏らした。