──────秋side



ガヤガヤと騒がしい学食の光景は、いつも通り。

イギリスから帰ってきて、クラスの人間が変わっても、ここは変わらないから少し安心する。

目の前の泉は本を捲って、
僕は缶コーヒーのプルタブを開けた。

泉の捲る本は英訳の本で、それをペラペラと捲りながら、不意に声を掛けてくる。

「‥で、高2の出遅れ登校初日はどう?」
「まぁ、いつも通りだね。」
「何か興味沸くものとか無かったのか?」

何てチラリと此方に視線を移す泉。

興味の沸くもの。
そう言われて浮かんだのは隣の席のあの子。

顔が“彼女”にそっくりで、
だけど似ても似つかない隣の席の彼女。

「…そうだな、面白い子が隣なんだ、今。」
「面白い‥?」
「なんていうか見てて飽きないんだ。行動が予測出来ないと言うか…。」

最初は、ただ、本人かと思った。
だから思わず顔が歪んでしまった。

あれは我ながらに失礼だったと思う。

でも別人だとすぐに分かった。
隣で友達と絡む姿は彼女とは全然違ったから。

彼女は、…千秋(チアキ)はあんな風に友達と絡んだりしなかった。

その次に抱いたのは好奇心と興味。

千秋にそっくりな彼女は、一体どんな人なんだろうって。

本を読んでいるフリをして、横目で彼女を捉えれば、友達の前でコロコロと変わる表情が楽しくて、つい目が離せなくなってしまって。

現代文で眠たそうにしていた時は本当に面白かった。

何てクスッと思い出し笑いをすれば、驚いた顔で泉は僕を見る。

「お前がそんなに楽しそうなのは久しぶりに見た。」
「そうかな?」
「ああ。‥いつもはちょっと作り笑いしてるだろ?」
「はは。そんなつもりは無いんだけどね。」

何て呟きながら頬杖を付いて、僕は残りのコーヒーを全部飲み込んだ。