「あのね、鈴ちゃんの隣は王子様なの。」
「…は?」

突然そう言われて一瞬固まる。

え、王子様?なんだそれ。
そんなのこの学校に居たっけ。

「そのポカンとするのやめて。」
「ご、ごめん。」
「ていうか、知らないのきっと学年で鈴ちゃんだけよ。先輩達からも大人気なんだから。」
「…へえ。」

なんて興味無さげに呟いて、チラリと隣の席を見た。

…‥空席。
どうやらまだ王子様は来てないらしい。

「え、というか何で王子様なの?」
「見た目がとにかく童話から出てきた王子様みたいなの。まぁ、ハーフだからかな。」
「‥ハーフ。」
「イギリスと日本のハーフだって。」
「そうなんだ?」
「そうなの。だけど皆絶対に王子の周りを取り囲んでキャーキャー言ったりしない。」
「え、どうして?」

王子様でそんなに格好良いのなら、皆黄色い声をあげて取り囲んだりするのが普通じゃないの?

そんな私の疑問に応える様に、藍ちゃんが口を開いた。

「あのね、私も直接は分からないんだけど、王子には近付きがたい雰囲気みたいなのが漂ってるらしいのよ。」
「…雰囲気?」
「そうそう。まぁ、皆声を掛けて下手に近付くよりも、目で楽しんでいたい、みたいな。」
「‥へえ。」
「確かに私も初めて見た時そう思ったしね。」

そう言って思い出した様にそう言う藍ちゃん。
一体この隣の席の王子は何者なんだ。


「それでもまぁ、ビジュアルは最高に良いらしいから、皆告白したりするんだけど、全部断ってるらしいの。」
「ふーん?、なんで?」
「さあ?、この学校に目当ての女子は居ないんじゃない?」

何て呟く藍ちゃんに、どうしてこんなに知ってるのか疑問に思う。

やっぱり王子様は人気者だから、こんな風に噂が広がるのか、何て。

「てか、それで、その王子が私の隣でどうなるの。」
「どうなるのって、鈴ちゃん分かってる?王子様の隣って、そりゃもうクラス中の女子が羨ましがる特等席なのに。」
「…そ、そういわれても。」

突然“王子様の隣の席”とか言われて舞い上がれる訳がない。
だって、その王子の顔だって私知らないもの。

「じゃあ藍ちゃんも私のこの席、羨ましいって、思ってる‥?」
「私はぜーんぜん。だって興味ないもの。私が好きなのはBLの世界だから!」
「あ、‥そ、そうですか。」

突然目をキラキラさせて、にっこりと藍ちゃんは微笑む。
そうだ、この子はBL(ボーイスラブ)を愛する腐女子だった。

「…‥、」

私にはBLの良さなんて全く分からない。