橘さんにリードされる形で俺は歩いた。
 ゆっくりゆっくり慎重に。

 ひとことも話せない。
 まず、何を話したらいいのかがわからない。
 橘さんに連れてきてもらったのは夜景とイルミネーションがきれいな公園だった。

「腕組ってもしかしてはじめてですか?」

「え?」

「先程から持内さんの心臓の音が私のところまで伝わってきます」

 恥ずかしいやら情けないやら。
 俺の顔が一瞬で赤くなる。
 自分でもわかるくらいに赤くなる。

 橘さんが、俺の腕から離れる。
 そして、俺の目を見つめた。

「今日は楽しかったですか?」

 橘さんは、そう言って少し照れ笑いを浮かべた。
 なにがあったかは、覚えていない。
 だけど……

「ものすごく楽しかったです」

 橘さんの顔が、少し緩む。

「何が一番楽しかったですか?」

 全てが楽しかった。
 そう言いたいのに言葉が出ない。
 橘さんがクスリと笑うと俺との顔の距離が縮まる。
 そして……
 次の瞬間、俺の口の中にハイ・レモネードの味が口に広がった。