一刻も早くここから出ていかなければ、と、そう思った昨日――。夜中にこっそり抜け出して、川で命を落とそうと考えた。

 だが、結局は谷嶋の屋敷で朝を迎えている。

 ――ということは、昨夜はきっとあまりのショックで泣き疲れて寝てしまったんだろう。

だから夜中、川に行ったことはきっと夢の中の出来事だ。

 春菊は、期待してはいけないと、谷嶋と夜を共にしたあの出来事が夢だと自分に言い聞かせる。

 自分と彼が両想いになることは有り得ない。

 自分は両親の借金の過多に売られた子だ。

 同情されこそすれ、恋愛感情なんて持たれるわけがない。

 けっして……。

 それなのに、夢の中の出来事が本当にあったことだと勘違いしてしまいそうな自分がいる。

 なんて愚かだろうか。天地がひっくり返ったってそんなこと、起こりはしないのに……。



「っく……っふぅ……」