ひめごと。




 春菊は、そんな初心な仕草が谷嶋の心を捕らえていることも知らない。


 今日の午後、谷嶋が家に帰るなり侍女から母親がやって来たと知らされた時は血の気が引くほどの恐怖を感じた。

 母が家に来たということは、春菊を見られる可能性があったからだ。そして常識や世間体を重んじる母はおそらく春菊を頭ごなしに怒鳴り散らすだろう。

 そうなれば、控えめな春菊は何一つ反論せずすべてを受け入れてしまう可能性が非常に高かった。

 春菊は向けられた攻撃を受け止め、自分を殺す方へと意識が向く。


『自殺』という単語も、谷嶋の頭に過ぎったのはあながちハズレでもなかった。

 母がやって来たことを侍女から聞かされた時は焦ったが、幸い春菊はきちんと部屋にいて、微量ながら食事もしてくれた。

 ほっとする反面、追い詰められた春菊がいつ行動を起こすだろうかと目を光らせていた矢先、春菊が行動を起こしたのは寝静まった深夜だったということは言うまでもない。