胸が締め付けられ、何も言い返せない春菊はただただ唇を閉ざし、谷嶋から受ける熱い視線をどうにかしようと逸(そ)らす。
口を開ければ――。
彼を見れば――。
ただそれだけで、病にでも冒(おか)されたかのように、胸が苦しくなる。
それなのに、春菊の髪を梳いる長い指は、宝物でも愛でるようにして、黒髪を伝う。
「部屋を共にしなかったのは、身体を労(いたわ)ろうとして身請けしたのに、それでもこの美しい柔肌を抱きたくてたまらなくなったからだ……。
ここで抱いてしまっては、廓で水揚げをするのと変わらないじゃないか……」
「それでもっ!! それでも、私は匡也さんに抱かれたかったっ!!」
春菊が言ったとたん、細い身体が、力強い腕に掻き抱かれた。赤に戻った唇からは、春菊の短い悲鳴が放たれた。
今、自分は谷嶋に抱きしめられている。
あらためて自分の状況を頭に思い描けば、羞恥が羞恥を呼ぶ。顔はさらに朱に染まった。



