涙が頬を伝い、春菊の悲しみが胸に広がる。
この想いを知られたのだ。もう側に居ることすらできないだろう。
春菊はやがて去って行く彼から視線を外し、ただ地面に項垂れ、嗚咽とともに涙を流す。
こうして自分はひとりで生きていくのだと、そう思った。
だが、その考えは外れる。
春菊の身体は突然、冷たい地面から浮いた。
「本当に? それは本当かい?」
訊(たず)ねてきた声は春菊と同じように震えている。
腰に回された腕の熱を感じて、春菊の呼吸が一瞬止まった。
「本当に、君は俺を想ってくれてるのかい?」
「あ、あの……匡也さ……っ」
突然の出来事に何が起きているのか分からず、谷嶋に訊ねようと口を開けると、すぐに唇が降りてきて塞がれた。
川の水を浴びた身体は冷え切っているはずなのに、谷嶋から受けた口づけで熱を持つ。



