荒々しい息を立てながら、自分と同じようにずぶ濡れになってしまった彼――谷嶋 匡也が怒鳴った。
常に穏やかな彼、谷嶋 匡也は、これまで、荒々しい声を春菊に発することがなかった。
春菊は内心、とても驚いた。
しかし、それもそのはずだ。なにせ彼は人の命を助ける医者で、みすみす自殺しようとする人間を許せるはずがないだろうから。
そう思った時、春菊の頭は、考えることを止めた。
「ひどい……」
冷たい水に浸かったおかげで、身体の芯から凍えてしまう。
おそらく唇は真っ青になっているだろう。
その唇から出た言葉は震えている。けれどその震えは寒いからだけではない。谷嶋にはけっして通じない想いがあるからだ。
「匡也さんは酷い。貴方を想っているのに……身請けしてくれて嬉しかったのに……なのに、私を抱いてくれないどころか寝屋も別で、しかもお嫁さんを迎えるなんてっ!! ずっとずっと想い続けて、側にいられると思って……それなのに、私を捨てようともしないなんて!!
私がどんなに貴方を想っているのか知らないでしょう? 死にたい、死なせてよ、もう貴方なしじゃ生きられないっ!!」



