ひめごと。




「……っ情けなんて……かけられたくなかったっ……」


 春菊は切れない涙を流し、やがてやって来る別れを感じながら一人の時間を費やした。





――――………。

――――………。



 誰もが寝静まったその夜、春菊は縁側を抜け、庭へ降り立った。

 少し寒い……。

 そう感じるのは、今が紅葉の季節だからというわけではない。

『谷嶋から離れる』

 そう思うだけでいっそう寒さが増した。けれど、このままココに居れば必ず谷嶋に迷惑がかかる。


 ならば今日、谷嶋の母だと名乗った女性に言われたとおり、早々に屋敷を出ていくしかない。


(でも、匡也さんから離れてどこに行けと言うのだろう)

 金子も持ち合わせがない自分には行き先などどこにもない。


 薄手の衣のまま、立派な門構えをくぐり抜けると、見えてくるのは大きな川だ。

 はじめてここへ来た当初、緩やかに流れる川は故郷の海に繋がっているのかもしれないと、ふと思った。


(この川に添って行けば、海に出られるだろうか……)