「何が困るのですか。息子がどのように暮らしているのかを知るのは母として当然のことでしょう?」
春菊は、甲高い声の女性と、その人を制するための侍女の焦り声がこちらへ向かってくる足音と共に聞こえ、寝間から起き上がった。
体調は世話してくれる侍女と谷嶋のおかげでずいぶん良くなり、今では広い屋敷の庭を隅から隅まで軽々と歩けるようになっていた。
――にも関わらず、塞ぎがちになっているのは、谷嶋に捨てられるかもしれないという思いと、離れたくないという想いがあったからだ。
おそらく、谷嶋は自分が動けるようになればすぐに捨てるだろう。
春菊はそう考えていたからであった。
春菊が傍らに置いてある反物を肩にかけたと同時に目の前の障子(しょうじ)がコトリと開いた。
目の前では、いつも春菊を世話してくれている侍女と、肩で呼吸する見知らぬ女性が立っていた。



