それでも俺たちは別れなかった。


いつ葵を傷つけてしまうかとビクビクしながら。

セックスどころか、キスですら傷つけるんじゃないかと脅えながら。


だけど一緒にいた。

別れたくなかった。


――あのことが起きるまでは。





「卓巳っ! やめろよっ!!」


ウッチーの声が後ろで響く。

だけど俺の拳は止まらず、男の左頬にめりこんだ。


妙なうめき声を上げて、廊下の壁に背中をぶつける男。

金井信二。

俺と同じクラスの、特に仲がいいわけでも、悪いわけでもないやつだ。



「な…殴ることないやろ!」


金井は腫れた頬を押さえ、下から睨みつけてくる。


「俺は親切で教えてやったんやぞ!
――卓巳の女が浮気してるって」


「うるさいっ!」


叫びながら、倒れている金井に飛びかかった。