「嫌やっ!」


俺の下で葵が叫ぶ。

こんな光景、もう何度見たやろう。


あの日以来、葵はセックスの途中で必ずと言っていいほどパニックに陥り泣き出してしまうようになった。


フラッシュバック、ってやつだ。


俺の手も、唇も、葵にとってはもはや記憶を掘り起こす凶器でしかない。



「水野……。大丈夫やから。
俺やから……!」


何度もそう伝えながら、葵を抱きしめる。


葵は涙で濡れた瞳に俺を映し、やっと現実に戻ってくる。

ここにいるのは“あの男”じゃない――そのことを認識して。


でも体はまだ震えてる。

理性とは別のところで、
葵は“男”である俺を恐れている。



「ごめん……卓巳」


「気にするなよ。きっとまた、できるようになるから」


俺は葵の頭をなでた。



強がりじゃなかった、と言えば嘘になる。

いくら葵の前で余裕のあるふりをしていても、
俺の本心はやっぱり、傷ついてた。