「卓巳。この映画って興味ある?」



ある日の放課後、ふたりきりで帰っていると、
葵は鞄の中から、細長いチケットを2枚取り出した。



「お姉ちゃんからもらったんやけど、観に行けへん?」


「行く行く!」



公開前から観たいと思ってた邦画の鑑賞券。

ふたつ返事で俺は答えた。



「んじゃ次の日曜あたりにしよっか」


葵も嬉しそうだ。


俺たちはその映画に出ている俳優の話で盛り上がりながら、駅までの道を歩いてた。


駅前には3階建ての大きな本屋がある。

その前を通りかかった時やった。



「あれ? 卓巳」



甘ったるい、聞きなれた声。

足が止まった。



「やっぱり~! 卓巳だぁ」


「……マミ。なんでこの駅に?」



あ、やば。
嫌な言い方やったかな。

不安になったけど、マミちゃんは気にならない様子やった。



「近くの本屋さんに欲しい参考書がなかったから、来ちゃった」



来ちゃった、って……。


参考書の入った茶色い紙袋を胸に抱き、マミちゃんは内股で走り寄ってくる。


俺の左隣の葵が一歩、後ずさった。