言われていた検査のため、数日後に1人で病院へ出かけた。
お腹の子のためなら何の抵抗もなく乗れた診察用の椅子が、忌々しく見えて仕方がなかった。


「うん、綺麗に流れたみたいですね。もう大丈夫ですよ。軽い出血が続いてるけど、じきに治まるでしょう。体調が回復したら、通常の生活に戻っていただいて結構ですよ」


跡形もなく赤ん坊の形跡が消えたことを、医者は『良かったですね』と言っているのだ。
『ありがとうございます』とでも返せばいいのだろうか。

結局、彼女は無言のまま病院を去った。


何かの名残のような出血はその後1週間ほどで治まったが、鈍い痛みは1ヶ月続いた。
その間家から一歩も出ようとしないみのりに、両親は何も言わなかった。

そして体調が戻っても、彼女が『通常の生活』に戻ることはなかった。