300万円

こぶチャンが、テーブルを挟んでアタシの前に座る。

ウェイターがお酒のセットを持ってきた。


まだまだ危なっかしい手付きで、アタシがリクエストした鏡月のアセロラ割りを作る。

まあまあ、まだ慣れてないがそのうち完璧に出来るようになるだろ…



うん、まぁ…

温かい目で見守るのがいい…



そう、温かい目でね…




……!?!?



てか、やっぱり無理!!
温かい目でなんて見てられない!!

だってマドラーが逆だよ、あんた!!

確かにここのマドラーは黒の上下わかり辛いけども…

よく見てくれ!
上の方はちゃんと少しだけ形が違うでしょ!

しかも、お酒作ってる間は真剣なのか…無言。


こ、こいつ…ハハハ…前途多難です。


指導者…誰?


しっかりとした人、この店はいないの??
新人教育はどうなってる??


「あんたさ、酒飲めないの?」

『えっ?』

やっと、こぶチャンがこっちを見た。
ずっと鏡月とアセロラとの戦いで、アタシが客のことを忘れてるかと思ったよ。



「酒作りながら無言。不器用過ぎる…。」

『あ、あ、ごめん!』

何故か慌てて立ち上がり、ゴンッと音と共に、せっかく作ったアセロラ割りは見事にテーブルにぶちまかれた。

こぶチャンは膝を押さえて悶絶しながら、ペコペコ謝っている。


無理だ……。






面白すぎる……。

アタシは思い切し笑い転げた。

だって我慢できない…面白すぎた。


受付兼ウェイターの人がおしぼりを沢山持ってきて、慌てて拭きに来た。

『申し訳ありません!!濡れてませんか?大丈夫ですか?』

「あぁ、大丈夫、プッ、アハハハハ。」


そんなこんなで、テーブルの上も元通り乾き、アタシは自分でアセロラ割りを作った。


『なんか、ゴメン。オレ、酒最近飲めるようになったからさ、ゴメン。』


な、な、なに、この雰囲気……。

ダメダメ!

盛り上げなきゃさぁ。

仮にもホストでしょ?


アタシの笑いのツボスイッチがようやくオフになった頃、どよ~んとした雰囲気を作るこぶチャンの隣に金髪のスゲーチャラ男がやってきた。


『ハロー!!失礼するよぉ』

いやいや、本当に初対面で失礼な感じですが?

『オレの名前はユウタ!よろしくしくしくドッピューン!出ちゃった、アハハハ。はい、名刺。捨てないでくれよ!』


あぁ、マジ、うざいです……。