「あっ、来た!」
笑顔で入口の方に向って手を上げた杉田君。
杉田君の瞳には、もう歩美さんしか映っていなかった。
ゆっくりと足音のする後ろを振り向いた。
そこには、私より背が低くて、まるでフランス人形のように瞳がクリっとした歩美さんが立っていた。
「はじめまして」
席に着いた歩美さんが小さな声で言った。
その声は少し震えていて、今すぐ守ってあげたくなるような怯えた声だった。
「はじめまして」
出来る限り笑顔で言った。
歩美さんを怯えさせたくなかったから。
だけど、それは歩美さんへの優しさなんかじゃない。
杉田君が歩美さんを大切にする思いをこれ以上見たくなかったから。

