どうして?

どうして息子さん達と暮さないの?


きっと一人暮らしより楽しい生活が待っているのに……。



そんなふうに思っている私に、山本さんが語りかけた。



「熊田さん、身の回りのことはほとんど出来るようになったけど、元のような生活ができない分息子さん達に迷惑をかけてしまう……
それがいやなんですって。
家族に気を遣わせて自分も気を遣う生活より、ホームに入って時々家族と笑顔で会いたいって話していたわ」



山本さんの話を聞いていると、熊田さんの笑顔が浮かんでくる。


胸が締め付けられるような思いになった。




同じ人がいないように、人が望むものもそれぞれ違うんだ。


熊田さんが望んだのは、家での家族との時間ではなく

家族と自分の笑顔だった。


家族の温もりを感じながら気を遣う日々より、

短い時間でも笑顔で家族と触れ合うことを選んだ熊田さん。




熊田さんにとって、そうすることが本当に幸せなの?


それは誰にもわからない。

熊田さんにしかわからないこと。




私の胸の中で、

これからも熊田さんの笑顔は生き続ける。




熊田さんが退院した日の夜、

空にはたくさんの星が瞬いていた。