ギブスがとれた私の右手。


両手が自由に使える喜びを感じた私は、

『特別』と思えることがまた増えていた。



私は専門学校の合格を山本さんに伝えに行ってから、時々リハビリテーション室に顔を出すようになっていた。


先生や患者さんたちの汗と涙。

笑顔がそこにある。



そして、胸が痛くなる別れもあった。




久しぶりに会った熊田さん。


私の顔を見て、笑顔で折り鶴を掌に乗せてくれた熊田さんが言った。


「よく来てくれたね。
最後に会えて良かった」




これが、私にとって熊田さんの最後の言葉になった。




退院。


その言葉を聞いた時、私は喜んだ。

熊田さんはリハビリを頑張って、やっと我が家に帰れることになったんだと……。



けど違ったんだ。


リハビリを頑張った熊田さんが帰る場所は、住み慣れていた場所じゃなかった。



聞いたこともない名前の老人ホームだった。



一人暮らしだった熊田さんには、近くに住む息子さん夫婦がいる。


退院したら一緒に住むことになっていたのに、熊田さんが自ら老人ホームに入ることを決めた。