「……ん」
何か聞こえる
体が揺れてるというよりは揺すられているのか
あ、この声は…優しくてずっと聞きたかったカナウ君の声
「桜井さん」
カナウ君の声がやっと鮮明に聞こえた
重い瞼がゆっくりと開いていく
まだ目がチカチカするけどカナウ君がいるということは分かる
そしてやっとはっきり見えたカナウ君はなぜか顔が近くて赤くて目が合うと目をそらしたくなった
でも、キスが出来そうなくらい近くてやっぱり見いってしまう
私が眠ってしまっていた間にカナウ君はテキストを片付けてペンケースもしまいカバンにもう帰りの準備を終えていたらしい
机の上には何もなくて向かい側に座っているカナウ君は制服のジャケットを着ていなかった
肩に少し重みがある
確認できなかったけどきっと眠ってしまった私にジャケットをかけてくれたのだろう
優しい
「カナウ君…」
ありがとう
そう続けようとしたけどカナウ君は一回目をそらした
でも、唇を噛み締めてまた目を合わせてくれた
「桜井さん…」
カナウ君の手が私の頬を触れた
なぜか熱くて少し大きなカナウ君の手は私の頬を撫でた
何が起きているのか、もうドキドキしすぎて分からない
はじめて触れたカナウ君の手、温もり
「あ、あの…カナ…ウ…君?」
戸惑いながらも絞り出すように出したその細い声にカナウ君も我を取り戻したように手を離して顔を遠退きうつむいた
なんだったんだろう
まだ状況が読み込めなくてどんどん顔に熱がたまっていく
それはカナウ君も同じみたいで顔が赤い
なんなのよ、もう
私の顔に何かついてたのかな?
それとも…それともカナウ君私のこと…
頭のなかにあり得ない思考回路が浮かぶ
カナウ君が私を、何てそんなことあるわけないもん
それにそういうこと考えちゃったら…うまくいくことだけ考えちゃったらうまくいかなかったとき余計に落ち込むもの
今のは心のなかだけにそっとしまっておこう
「ごめん」
私が頭のなかでグルグルと考えているとカナウ君はそう呟いた
でも別にそのことは気にしてないし逆に嬉しくて…もっと、もっと撫でてほしかったし、赤くなったカナウ君の顔をもう一度見たい
駄目かな?
「桜井さん、今の忘れて」
弱々しくそれでもカナウ君は目を見て言ってくれた
カナウ君の顔はもうすっかり赤さがひいていた
それに少しがっかりしたけど久しぶりにカナウ君の顔をじっくり見れたような気がしてそれでも嬉しかった
カナウ君なかなか目を合わせてくれないから
だからいいんだ
でも少しだけわがままを、いじわるを…
「いいよ
そのかわりにひとつだけ教えて」
カナウ君は私の言葉に首をかしげたがすぐに素直に頷いた
そんなカナウ君がかわいくて心臓が高鳴った
だからもっといじわるをしたくなった
「高校どこ行くの?」
私はずるい、性格も悪いし
それでもどうしても知りたいことがあるから
君がいる未来はどこだろう
だから…
「そ、れは無理」
教えるのを戸惑ったみたいに、言葉をつまらせた
それでもカナウ君は教えてくれなかった
冷たいその一言に心が痛んだ
でも、カナウ君もなぜか辛そうな表情を浮かべていた
なんでなのか、知りたいけど今はまだ教えたくないってこと、ならばしつこくはしない。したくない
だって嫌われたくなんてないもの
素直に引き下がろう
「分かった
じゃあ、かわりに住所教えてよ」
「え?」
私のその言葉にカナウ君は非常に驚いていた
でも、私は今度こそ引き下がらないよ
それに一回断った身だものカナウ君も断れないでしょ
「あ、の
どうする気?」
なにが?
カナウ君の言った意味が最初は分からなかったけどよく考えたらとんでもないストーカー的発言をしていたことに私自身驚いた
だから焦ってとにかく修正をして、もう少し詳しく説明する
「あ、あのね!
そういうんじゃなくて
はっきりいうと年賀状送りたい、ん、だ」
カナウ君のこと少しでも知りたくて……
私だけが知っている何かがほしくて……
少しでも特別になりたくて……
私のことを信用してほしくて……
私のこと信じられないかな?
肩を落として多分しょぼんとしていただろう私にカナウ君は呟く
「それは、どうしても?」
その言葉は私に突き刺さっていくら小さい呟いた声だとしてもなんだかとても大きな何かに刺された気分だった
「あ、うん……
ダメだった?」
なにも言わずにカナウ君は俯いた
でも、私は嫌だよ、カナウ君
ここで引き下がったらこれからのカナウ君への苦しい恋をしながら生きていけるわけない
無茶してでも、しつこくても、わがままでもどうしても知りたい
「ねぇ、お願いカナウ君!
教えて!
最後……なんだよ?」
私は顔の前で両手をあわせた
閉じていた目を開けるとカナウ君と目があった
いつもより冷たい目をしていた気がする
気のせい……だといいなぁ
「あの、桜井さん……
ひとつ約束して」
「ん?」
「俺を忘れないでね」
その言葉は、私にはとても難しく、なんでカナウ君がそんなことを言ったのか私にはとても理解出来なかった


