男が大刀を構えてじりじりと近寄ってくる。勇飛くんがさっと立ち上がって、私をかばうように細長い剣を構えた。私は立ち上がろうと地面に手をついたとき、背後に広がっている光景を見て目を疑った。

 だって、すぐ後ろは高さ十メートルはあろうかという断崖絶壁で、下には大河の急流が見えたから。

「ね、ここ、どこ? いったい何が起こってるの?」

 私はあわてて立ち上がり、勇飛くんの背中をつついた。爪が当たって鎧が鈍い金属音を立てる。

「しっかりしろ。戦闘中だぞ、魔法を使って俺を助けろ!」

 戦闘中? あ、そっか。私、ゲームしながら寝ちゃったから、夢を見てるんだ。

 よかった、夢なら何でもできるはず!

 私は手に持っている、木でできた細長い魔法の杖を構えた。

「えーっと」

 呪文を唱えようとして、真っ白になる。

 私、ゲームを始めたばかりで、何もわからないんですけどぉ!

「どうした、早く何か攻撃魔法を」
「あのぅ」
「おい!」
「それが……」

 勇飛くんがイライラした顔で振り向いた。

「なんだよ、悠長に考えているヒマなんかないんだぞ!」
「や、それがね、私……」
「何だよ」
「呪文、まだ何も覚えてなくて」