薔薇の夢をあなたに

「サタン?伝説の魔族の王…ですか?」
「ビジョンの中に、額に逆さの五芒星を持つ悪魔が見えたの…伝説が本当なら…」







サタン。伝承では魔界の王とされている。
強大な魔力を持つがゆえに、大昔に冥界に封印された超上級悪魔だ。
人の心に潜む邪悪な感情を食い生きながらえるとされている。
そんな、大昔の作り話のような悪魔が地上に来ている…?









その瞬間、部屋の中に突如魔方陣が浮かび上がる。
魔方陣は一瞬強く光を放つと、二つの人影を吐き出した。









「デイヴィス様!!レイ様!!」
二人の団長が、悪魔の黒い返り血まみれで現れた。
服がところどころ破れて赤い血がにじんでいる。











「ジュリエット様、ご無事でしたか…」
私の安否を確認し、安堵するデイヴィス。
その声とは裏腹に、瞳は暗かった。









「デイヴィス!!お父様とお母様は!!?」
その言葉に目をかっと見開き、唇を噛むデイヴィス。
すっと金髪の少年が歩み出る。









「皇后殿下は私たちが到着した時には…すでに…。国王殿下は最後まで戦われました…、しかし、勝ち目がないと悟ると、命と引き換えに【太陽の石】を封印し、そのまま…」







「それって…」
「お二人とも、つい先ほどお亡くなりになりました。」
淡々と告げる少年。










身体から熱がなくなっていくような気がする。
脳が理解を拒んでいるのか、涙も全く出なかった。








「レイ!今は言うべき時じゃ…!!」
「デイヴィス、これは一刻を争う。【太陽の石】を失って、国王を殺して、次に奴らが狙うのはなんだ!?直系である姫の命だろ!!!」







デイヴィスははっとした表情に変わる。
「敵の目的が分からない以上、姫を守り抜くことが今の僕たちの唯一の使命だ!!一瞬のためらいが命取りになる。」
「レイ、お前いったい何を…」









「一度しか言わない。よく聞いてくれ、デイヴィス、ロゼット。
僕は君たちを信頼している。君たちを、ジュリエット様と一緒に、今から時空移動で限りなく遠くへ飛ばす。ほとぼりが冷めるまでは、どこかに潜むんだ。今太陽の軍勢は総崩れの状態だ、反撃のその機会までどこかで力を蓄えてくれ。」









「レイ!お前は?」
「僕は、もう一度城へ戻る。何とか封印できないかやってみるつもりだ。」










「一人で何ができる!?」
「ふん、一人の方が好都合だ。君たちがいると、僕はどうしても魔力を制御しないといけなくなるからね。」








「無理だ!死ぬ気か!」
「死なないよ。」
少年の決意は固いようで、瞳は真夜中の海のように暗かった。









「時間がない。僕は今から姫の記憶を封印する。」
私は驚いて少年を見る。









「どういうこと!?」
冷たい瞳が私をとらえる。
「あなたを守るためです。知らないでいる方がずっと安全だ。彼らも姫を守りやすくなる。」










「レイ…そこまでする必要は…」
「すまない、デイヴィス。何年隠れ続けることになるか、どれだけ追われるかわからない今、打てる手は全て打っておきたい…詳しい話をしている暇はないんだ、すまない」










少年の瞳にとらえられ、私は身動きが取れなくなる。












「しばらく会えなくなる…だけど必ず迎えに行くよ…僕は…世界で一番君のことを想っている…」







少年の美しい顔が近づいてくる。
彼の唇が私の唇に柔らかく重なったのと同時に、私は意識を失った。