薔薇の夢をあなたに

そういえば、この前は体を動かすだけで痛んでいたのに。

手足の生傷はすっかり癒え、時空移動の後の体の痛みはほぼなくなってしまっていた。

足が動かないこと以外はすっかり回復していた。

恐る恐る足に触れてみる。

…ほっとした。感覚はあるようだ。手のぬくもりを感じる。

大丈夫!この調子ならきっと治る!!

自分で車いすを動かして私は庭に向かった。

「あ!いた!!!」

バラ園の真ん中に彼はいた。

「レイ!!」

私が呼び掛けると、レイは振り向いた。今日はワイン色のローブを羽織っていた。

「ジュリエット、目覚めたんだね?」

彼はあっという間に、側まで来てくれた。

うっ、このきれいな顔…本当に慣れない…。
今日も絵本の中から飛び出してきたように、完璧な美貌だった。

「あ!あの…」

また赤くなってしまうのが分かる。

「レイ…ありがとう…」

聞き取れなかったのか、不思議そうにかがみこんで覗き込まれる。

「ん?どうかした?」

ドキッ!!!!ち!近い!!

「ありがとう!あの、お世話も車いすもご飯も!!あと、近い!!」

私はぐっとレイの胸を押す。

「あっ、ごめん!!久しぶりに人と会うから距離感おかしくなってるのかな?」

レイはスッと身を引いてくれた。

「だいぶ良くなったみたいでよかった。」
とても嬉しそうに笑う彼に、ドキドキが止まらない。

…仕方ないよね…こんなに美しい人めったにいないんだし…

「ねえ、レイ?」

「ん、どうしたの?」

レイは私の車いすをゆったりとしたスピードで押していく。

「私レイのこと、色々聞きたい。このお城には一人で住んでいるの?なんで私を助けてくれたの?」

彼について私は何にも知らない。
私は少しでも彼のことを知りたかった。

「僕?あ…うーーん。多分君はあんまり知らない方がいいと思うけど。」

困ったような表情で答えるレイ。

「なぜ?」

「僕は君が思ってくれているような素敵な人間じゃないよ。」

悲しそうな瞳だった。

車いすがキィっと止まる。
私は振り返った。

そこにいたのは儚く消えてしまいそうな俯く少年で。
私は思わずその頬へ手を伸ばした。

「ジュ、リエット?」

「ごめんなさい、話したくないのなら聞かない。」

触れてみると、やっぱり見た目通りのすべすべした頬だった。

レイの頬がほんのり赤みを帯びたような気がした。


「ありがとう。時期が来たら話すよ。さあ外も冷えてきたし、そろそろなかなかに戻ろう、ジュリエット。」

「そうね。」

私は名残惜しかったけど、レイから手を離す。

車いすは再び古城へ戻っていった。

あの瞳も、あのぬくもりも私はきっと知っている。
そんな気がした。