薔薇の夢をあなたに

その次の動きはきっと誰にも見えなかっただろう。

団長がコインを放った。
一瞬、浮かび上がったコインはすぐに重力にとらえられ地面へと落ちていく。

そして地面にコインが触れた刹那、私のブーツは地面を弾いた。

ガキン!!!すさまじい金属音が響く。

私の、団長の頭部を狙った速攻は簡単に盾であしらわれる。いったん下がり、邪魔な盾を止めるため向かって右側に攻撃をしかけた。

冷たい金属音が響き続ける。

「ほう、さすが団長ね。今のジュリエットの速さを見切れるのは団長くらいなものよ。」

ロゼットのつぶやきは二人には聞こえていない。


私は、相性の悪さを再認識していた。攻撃の手も、動きも全く緩めていない。
なのに、どうしてもこの鉄壁をくずせない…

ドン!!
団長の振り下ろした強烈な一撃が私の髪をかすめる。何本か宙に舞う。

「チッ。」
今のでしとめるつもりだったようだ。
実際、私の体にはすでにいくつかの切り傷やあざができている。致命傷でないにしろ、このままの流れだと負けは確定だ。

続いての団長の横からの攻撃は、レイピアを交差させて器用に薙ぎ払う。だけど、衝撃は受け止められず、体は大きく吹っ飛ぶ。

「ジュリエット。あきらめはそろそろついたかい?」
上がった呼吸のまま話しかけられる。

「まだまだ!!!」
バネをつけて立ち上がると、私は大きく深呼吸した。実践では試したことないけど、やってみるしかない。一か八かにはなるけど…。

私は、最後の力をこめて猛スピードで突っ込んだ。ジャンプした瞬間に私は小さく魔法詠唱をする。

次の瞬間。
氷の閃光が散ったのと、団長の首元にクロスしたレイピアが突き付けられたのは、ほぼ同時だった。

私がレイピアを振りぬけば、団長の首は飛ぶ。息の詰まる一瞬。

「オーケー、ジュリエット。君の勝ちだ。武器を下してくれるかい?」

少し疲れた様子の団長は言った。