薔薇の夢をあなたに

私達は旅芸人だ。
各国を巡りながら流れ着いた街でショーを行う。街への滞在は一週間。滞在期間が終わると、また次の街を目指す旅の生活に戻る。

私たちは一年のほとんどが旅なのだ。
そのため、危険に遭遇する確率も圧倒的に高くなる。

魔法のテントも移動中はきれいにたたんで荷馬車の中だ。守るものは何もない。

つまり、魔物や盗賊に遭遇した時、私たちは自ら戦わなくてはならない。そのため、各団員は戦闘に対しても特化される。

毎朝、訓練が行われ、いつでも戦えるように準備しているのだ。

「暁の夢」は優秀な劇団であると同時に、最強の戦闘集団でもあるとうわけだ。

私は、ズボンを編み上げブーツの中に入れ込み、ぎゅっと靴ひもを縛る。

長い黒髪も高い位置ですっきりまとめてしまう。ブラウスは剣技の邪魔にならないように、いつものふわふわしたものでなく、ぴったりとしたものを選んだ。

この早朝の訓練の間に、絶対団長とけりをつけてやる…胸元の銀の三日月型のネックレスにそっと魔力を込める。

じわっと輝いたかと思った次の瞬間、二本の銀製のレイピア（普通の剣より短く軽い、速攻用の剣）があらわれた。

柄には小さな赤い石がうめこまれている。

私はレイピアを左腰に下げると、精神を集中させた。今日は自分がいつもより調子がいいことに気が付いた。