「レイ…ごめんなさい…さっきは。…助けてくれてありがとう…」
何も言わないレイ。私も構わず続ける。





「レイ、前に言ったよね…、私だけを守ってくれるって。その時すごく嬉しかった。でも…今はつらい…。」私は川面を見つめる。





「私だけ生きても、生き残っても…悲しいだけ。私はみんなを救いたい…みんなに幸せになってほしい…。





でも私にそんな力はない…目の前で殺されていく人たちを見てるだけ…」
少し震えそうになる指をぐっと握る。





「もし…私…私の命でサタンが鎮まるなら…私の命なんて…いらない…。」
「ジュリエット。」レイの碧い眼が私を見据える。冷たすぎる手が頬に添えられる。





「ジュリエット、生きる覚悟を決めろ。」
私はその真剣な低い声にゾクッとした。





「死ぬのはいつだって、誰だってできる。死ねば、使命から解放され楽になれる…。でも、君が、もし本当に、人々の幸せを願うのなら……生きるんだ。」





いつもと違う低い声、冷たいまなざし…





「屍を踏み越えて、進む覚悟をしろ。人々の笑顔を、幸せを守りたいなら。どんなことがあっても…だ。」
「…私…。」レイの碧い瞳の奥に光を探そうとする。




「君しかいないんだ。この世界を変えられるのは…。魔族に屈してはいけない…覚悟を決めろ。」
「やめて!!!!!」
私はその手を振り払って立ち上がる。




私は服のまま川に入った。冷たい水が、肌にしみる。
「何やってる、ジュリエット!」濡れるのも構わず、私に近寄ろうとする。




「来ないで!!!」私は鋭く叫んだ。
目を見開いて立ち止まるレイ。




「私は…怖い…。」
「…ジュリエット。」




「…目の前でエルフたちが死んでいくのを見た…魔族たちが人々を食らうのを見た…犠牲になんてできない…できないよ…」





顔を温かい水が流れていく。
既にびしょびしょの私は自分が泣いているかもどうかも分からなかった。





ふいに腕がぐっと引き上げられる。私はレイに引き上げられる。気付けば、水面に立っていた。





「僕も…君と同じ覚悟をする。」私は濡れた顔を上げた。





「君の運命を僕も一緒に背負うよ、…僕も一緒に戦う。」
「一緒に…?」




「うん。過去も未来も、そして運命も。もう逃げない…君を守ると決めたから。いや…」レイはゆっくりかぶりを振った。





「違う…こんなの気休めだ…。僕が伝えたいのはこれじゃない…」
「レイ…?」





レイの冷たい手が私の濡れた髪に通される。
見上げると、月明かりに輝く美しい人がそこにいた。その綺麗な唇がゆっくり開く。





「ジュリエット…僕は…君を愛してる…。」心臓が止まった。思考が完全に停止する。




レイは私の瞳を見据えたまま、続けた。
「僕は、世界で一番、誰より君のことを愛している。…今まで逃げてたんだ…君と向き合うことを…僕も僕の運命から逃げてたんだ…。




今誓う、もう逃げない。君と向き合っていく。僕が、君を一番傍で守るよ。…愛してる…ジュリエット。」




私は両手で口を覆う。信じられなかった。
「レ…レイ…。何で…」なぜか視界が涙で霞む。





「僕が君のことを好きな気持ちなんて、とっくにばれてたと思ってたけどな…。」
優しく私を引き寄せるレイ、その胸に体を寄せる。しっかりした腕が優しく抱きしめてくれた。




「僕も生きるよ、君と一緒に。君は一人じゃない。」
愛しいひとの言葉に私は満たされるのを感じた。




「レイ…私も…」クイッと顎を持ち上げられる。




「その先、目を見て言って欲しい…」
掠れるような甘い声でささやかれる。体の奥がぎゅっと熱くなる。私は碧い瞳を見つめた。




「私もレイのことを…愛しています…」
レイは驚いたように目を開くと、ふっと甘い笑顔をこぼした。





「一緒に生きよう…」
レイに優しい手のひら両頬に添えられる。私はスッとめをつぶった。







死と生の狭間の水辺で、私たちは互いを求め合うように唇を重ねた。