薔薇の夢をあなたに

切ない恋の歌。
許されない恋へとのめりこんでしまう男女の物語。
私の大好きな物語、切ない調べ。
一番好きな曲。

こころをこめて、丁寧に、歌い上げた。

歌い終わり、ピアノの余韻が消えても会場は波を打ったように静かなままだった。

私は、ドレスのふちをつまみゆっくり一礼すると、暗転していく照明の中に消えた。
その瞬間、我に返ったような観客の歓声が爆発した。

「ジュリエット、素晴らしかったよ…」
舞台袖に戻ると、団長はメイクが崩れるほどぐずぐず泣いていた。

「団長、早くお化粧なおさないと、出番に間に合いませんよ。」
私は思わず笑ってしまった。

実は団長に褒められたのは初めてで、私も涙が出そうになってしまう。

「ジュリエット、あなたは本当に胆の座った娘ね。最高のステージだったよ!」
伴奏を務めたロゼットさんもキラキラした笑顔で褒めてくれる。

他の団員も絶賛してくれた。
恥ずかしいやら、嬉しいやらで私はくしゃっと笑った。

それからは、後半の準備でバタつく裏方のお手伝いへと回った。