勝手に古今和歌集

『――――夏木さん』






………え?






『夏木さん、今までありがとう』






………は?




なに言ってんの?






相変わらずぼってりと重い前髪の下から、じっとあたしを見つめてくるぎょろりとした目玉。




目の前にぬぼっと立っている犬飼くんを、あたしは怪訝な顔で見つめ返す。







『ありがとう、さようなら――――』






は? ちょっと、なに言ってんの………?






くるりと踵を返した犬飼くんに手を伸ばそうとした、その瞬間。