「柚葉を返せ。」
「こいつは人質だ!
動くなっ!こいつを刺すぞ!」
静かになった倉庫には、玲央と向こうの総長の会話のみ。
「もう一度言う。柚葉を返せ。」
「ひっ……返すわけねぇだろ!」
どうやら本気で向こうの総長は死にたいらしい。
睨むだけで人を殺せそうな玲央は、誰が見ても相当お怒りの様子。
そしていつも冷静な筈の玲央が、焦っている。
玲央をそんな風にさせる事の出来る柚葉ちゃんはスゴイんだ。
人質になっている柚葉ちゃんは、玲央とアイコンタクトを取っている。
何をする気だ?
「柚葉。
必ず助ける。だからやれ。」
柚葉ちゃんに何をさせる気だ?
玲央の会話に主語が無いのはいつもだけど、こればかりはわからない。
でも、柚葉ちゃんには通じたらしく
「本当に?約束だよ?」
「あぁ。約束だ。
ごめんな柚葉。」
約束の次は、謝り出した玲央。
二人の会話についていける者はいない。
「なにゴチャゴチャ言ってんだよ!」
キレ気味の向こうの総長に御構い無しに会話を進める二人。
この二人さ今の状況分かってるのかな?
リラックスしすぎじゃない?
何和んじゃってるの?
「こんな奴にやるの嫌なんだけど……」
「後で消毒してやる。
今は"それ"しかないんだよ」
「チッ、わかったよ」
仮にも人質である彼女は、遂に舌打ちし出した。
眉間に皺を寄せて。
完全に自分が人質だって忘れてるよ……
「やれ、柚葉。」
「はぁ……気持ち悪。」
舌打ちの次はため息らしい。
二人の考えている事は読めない。
「なにゴチャゴ……ギヤァァァァァァ」
完全に置いてけぼりの向こうの総長が柚葉ちゃんにナイフを当て直したその時
何かに苦しむような悲鳴をあげだした。