いっそ、桜井先輩が右手に持っているそのプレゼントを奪い取って持ち去ってしまおうか。



そうすれば、そんな嫌な姿だって現実にはならないでしょ?



そんな悪い私が出てきて、手を少しあげる私。



でも...。



そんなこと、できない。



あげた手を、下ろした。



そんなことしたら、桜井先輩の笑顔を奪ってしまうことになる。



私の何よりも一番大好きな桜井先輩の笑顔を、私に向けてくれなくなる。



それが、何よりも怖いから。



「...おか、片岡?」



「え!あ、はい」



気づいたら、そこはもう家の目の前。



「あ、もうこんなところに。送ってくれて、ありがとうございました」



考えていたことをなかったことにするように、平然を装って、お礼を言う。



「おう。こちらこそありがとな!じゃ」



桜井先輩はそう言うと、今来た道を戻っていく。



ちょうど夕日が3分の1くらい沈んでいる頃で、それと桜井先輩の後ろ姿が、なんだか寂しい感じがした。