青天の霹靂

「刑事さんも分かっておいでじゃないですか? 私を殺そうとしてたのは、そもそもその彼女ですよ。渡すグラスを間違えたのは、その彼女だ。 も先程から、分かっているじゃないですか。そう、私は犯人じゃ それを、私のせいにされてもどうしようもありません」

「なぜ、毒を使ったのが彼女だと?」

「その脅迫状は彼女から、来ましたからね」

「えっ?」

「で、他に知っていることは?」

そう聞かれ、冬眞は日下が尋ねる。

「刑事さん、彼女の死因は何でした?」

「たぶん心筋梗塞じゃないか?」

「そうですか? では、彼女を解剖する人に伝えてください。コンバラトキシンの可能性ありだと」

日下は苦い顔をする。

若手の刑事は日下に質問する。

「コンバラトキシンって、何ですか?」

「鈴蘭の毒だ。鈴蘭を生けてた水を飲んで、亡くなった人もいるくらい強力ではある」

「でも、毒殺するときに、この薬はあまり使わない」

なぜか、急に忍が言う。

「えっ、なぜですか?」

若手刑事が尋ねると、忍は笑って日下を見るだけだった。

『わざとか? このガキ。一癖も二癖もあるとは、廉から聞いていたが、面倒くさいことこの上ないぞ。俺の力量が見たいから、わざとあのように、言ったんだとわかる。なんかそう思うとムカつくというもの』

でも、日下は説明する。

「鈴蘭の毒は無味無臭と言う訳じゃないし、量も一二滴垂らせば良いと言うものじゃないのさ。だから、毒殺には使用しないな普通。でも、何故そんな毒を今回使ったとわかる」

「理由なんてありませんよ。ただ、ここの庭なら鈴蘭も手に入れやすそうだなと思っただけです。それに、彼女は亡くなるときに、胸を押さえていましたから」

「まぁいい」

「それより僕たちの取り調べは、解剖がおわってからにしましょう?」

冬眞が言うと、若手の警察官が、がなり立てるように言う。

「何か疚しいことがあるんじゃないのか?」

「二度手間になりますよ」

それには、冬眞が言う。

「刑事さん、憶測でもっともらしく、語ることは、誰にだってできます。されど、それによりいらぬ嫌疑に時間をさいている場合じゃないんじゃないですか。どうせ今日中には、検死結果はでるでしょう? 少し遅くなるだけ、その時間も待てませんか? 刑事さんいらぬ疑惑は、時に人を傷つける刃となります。それを、覚えておいた方が良いですよ」

「良いよな、後で?」

廉は日下に確認をとる。

「ああ」

「警視、本気ですか? 今調べておいた方が良いですよ。もしかしたら、その間に証拠を捨てるかもしれませんよ」

「こいつらの取り調べは後でやる」

「知りませんからね。後で、慌てても」

「だ、そうですが」

夏海が笑って言えば、日向は、ハエを追い払うみたいに、シッシッとやる。

「あ~、もううるせぇな。あっちに行ってろ。どうせ責任は俺がとるんだ、何したって、いいだろう。俺のせいにして、上に報告しな」

「じゃ、そうさせてもらいます。上に報告させてもらいますからね」

若手刑事は怒って、どこかに行ってしまう。

「ああ、言うのは、怒らせるとやっかいだろう」

廉が言うと日下は笑いながら、言う。

「どうせ、トイレに籠もって俺の悪口言ってるんだろう」

「それに、因みに行きあたったことは?」

「ある。あれは、おもしろいぞ。あまりに頻繁で、女のあの日じゃないかと、実は疑っている」

笑いながら言う。

「そんなに彼を、怒らせていることに逆に、彼に同情します」

「同情はいらねぇよ。仮にも刑事なら、俺の前に、俺が何もいえない証拠を持ってくればいい。周りで騒ぐだけなら、ただのウルサい害虫だ。それは、刑事じゃない。そうは思わないか」

廉は苦笑いする。

「確かにな。彼は行く方向を間違えたな」

「ああ、官僚になればそこそこ行っただろう」

「そんなにかっているわけだ」

「でも奴は、もう選ぶ道を間違えた。日の目を見ることはないな」

「お前が見せてやればいい」

「俺に、そんなに働けってか」

「少しは、やる気になったろう」

「あいつが、俺を、うまく使えれば、それも有りだろう」

そして日向は言う。

「そのためにも、俺を無職なんかに、しないよな」

「お前の場合、別に理由がありそうだがな」

「相変わらず、廉様節健在か?」

廉は口の橋だけでそれに笑う。日向は、

「キャリアの人間は、それだけで、ノンキャリアの人間には煙たがれるものだ」

仕方がないとでも、言うように言う。

「お前の場合キャリアとか、関係ないと思うぞ」

「さいですか」

日向は、投げやりのように言う。

夏海は、事情聴取が終わったとばかりにケーキととんでいく。

それを、止めるものはいなかった。

「おい、あいつ記憶がないのか?」

日下が聞くと、廉も難しい顔をして言う。

「たぶん、あの事件が夏海にとっては、忘れたいんだろう。あそこら辺が微妙だ」

「じゃあ、不味かったかな?」

「いや、もうそろそろ、夏海も向き合う時期だ」

この二人の言葉で、冬眞は夏海には記憶がない部分があることがわかる。

それは、何だろう?

「お前も、うる覚えだろう?」

と、廉に突然言わ 冬眞は首を傾げる。

「何ですか?」

「俺らが高校生の時だから、忘れてても仕方ないが、俺たちの文化祭に、お前等が遊びにきてある事件に、巻き込まれた。そのときのこと覚えているか?」

冬眞は首を傾げる。

「行ったことは、おぼえていますが、何かありましったっけ?」

「お前もその頃の記憶が曖昧か? お前も夏海のこといえないな」

冬眞は記憶を探ろうとするが、なぜかその頃が靄にかかっている。

いったい何があったっけ?

「忘れているのは自己防衛本能だ。だから、覚えてなくてもいいよ」

廉が優しく言う。

でも、夏海は思い出さなきゃ行けないって言う何でだ?

「何か、気になるか?」

「ええ、なぜ夏海さんは思い出さなきゃ行けないんですか?」

「それは、金のある家に生まれてしまった者の宿命とでも、言うか、はたまた京極の人間としての宿命だろうな」

廉は静かに言う。

宿命? 何と重い言葉だろう?

それが、夏海にはある。

自分で選んだ訳じゃないのに。

重いな。

だから、こんなに周りに恵まれているのか。

でも、恵まれなくっても良いから、そんな重荷なんかいらないと思う冬眞だった。