「痛……」
くない。
まるで強めに頬を撫でられた程度。
しかし、叩いた本人は右手を左手で庇っていた。
それ程叩いたことが痛かったんだろう。
「花梨、大丈夫かよっ」
突然の自体にオロオロしながら私を見る彼氏。
「全然大丈夫よ、痛くないから。
それより今岡さん、大丈夫?」
中学の卒業ぶりとなる今岡さん。
確か彼女は地元から少し離れた女子校に進学したはず。
「…大丈夫」
気まずそうに下を向いて今岡さんはやせ我慢を発した。
そりゃあ、彼女からしたら渾身の力で叩いたのに叩かれた方はケロッとしてて、叩いた本人が痛がるという何とも可笑しい状況で気まずいだろう。
けれど久しぶりに会った同級生にいきなり叩く程のことが彼女の中では起こったのだ。
今岡さんは下げていた顔を上げると私を睨みつけた。
しかし、非力な彼女が睨んでもあまり効果がない。
「なに?言いたいことがあるんでしょ?」
腕を組み、怯える事なく彼女の喧嘩に買った。
「彼氏…できたんだね」
「まぁね…それが?」
別に今岡さんに何言われ様と傷つく訳がない。
そう強気に思っていた。
けれど強気でいられたのは此処までだった。
「………別に貴方に彼氏ができようができまいが正直私に関係ない。
でも…毎年8月9日に彼に会いに行ってる者として言わせて」
8月9日……そのワードを聞いただけで組んでいた腕は解かれ、向かい合う今岡さんを真っ直ぐ見ていた視線も下に下り、強気でいた気持ちも一気に崩れた。
そんな私に気づいているのか今岡さんは畳み掛けてくる。
「何で会いに行かないの?
別に小池さんに好きな人ができても私に何も言う資格はないよ。
でも同じ人を好きだった仲として……オダくんに一回でも会いに行ってよ…」
「……」
「私はちゃんとお別れした。
毎年“友人”として会いに行ってる……でも貴方は?
貴方は何をしているの?」
「……」
私は何をしているの?


