職員室で鍵を借りて音楽室にやって来た私は、授業中に着いていた席の机から、スマホを見付けてホッとため息をついた。


「良かった、優香の予想通りだったよ」


当の優香が一緒に来てくれなかったのは残念だけど、結局一人でいても「赤い人」なんて出て来なかったじゃない。


鍵を返して早く帰ろう。


そんな事を考えながら、優香にLINEを送る。


「待っててあげるから、早く来なよ」


そんな返信を見て、フフッと笑いながら音楽室の鍵をかけた時だった。










ペタ……。





ペタ……。










微かに……背後から奇妙な足音が聞こえたのだ。


え?何この音。


色んな可能性が思い浮かぶけれど、どれもこの音には当てはまらない。








見てはいけない……そう感じてはいたけれど、言いようのない不安から逃れたい一心で、私はゆっくりと振り返った。


そして私が見たものは……。







「あ、あ……」








廊下の奥、陽の光が当たらない、影になっている場所に、小学生くらいの女の子がこちらを見て立っていたのだ。


それが女の子だと分かったのは、長い髪に赤いワンピース、そして大きなぬいぐるみを持っていたから。


いや、赤いのは服だけじゃない。


腕も足も、顔も赤く染まっている。





私は……この時やっと気付いた。



「赤い人」を見てしまったのだと。