「前に俺、知紗を眠らせたことあったよな?」
修学旅行の日。
夜殺しの仕事に行く紅羽と神崎の姿を見たチサは、恭真にその記憶を忘れさせるため、睡眠薬を飲まされたのだ。
その睡眠薬には、一部の記憶を消す効果もあった。
しかし記憶を消すのは一定の時間だけで、すぐに思いだす。
結局紅羽と神崎が仕事に行ったことも、チサは思いだした。
「似ているね…今回の事件と」
勝手に事件にして良いのか、と恭真に突っ込まれたけど。
良いの。
チサの記憶から恭真の記憶を消した。
例えその時間が短く、思いだせたとしても。
チサにとっては許しがたいことで、大事件だ。
てか、どうして?
どうして大地は、チサから恭真の記憶を消したの?
大地はチサが好き…だから、チサから恭真の記憶を?
「キョウくん」と呼んでいた大地も、ココアをくれた大地も、皆嘘なの?
「…知紗」
「何?」
「文化祭の日まで、待っていてくれないか?
気になることがあるから、調べる」
「わかった…気を付けて」
恭真が一瞬、怖い顔をした。
怖い顔、とは思うけど、別に怖さ自体は感じない。
そこから読み取れるのは…。
「恭真。
もしかして、家のこと、関係ある?」
「…ああ」
やっぱり、“裏社会”について調べてくるんだ。
恭真の怖い顔は、恭真の“裏の顔”…つまり、殺し屋組織のボスの顔しているんだもん。
「心配するな。
調べ物をしてくるだけだ。
殺されるとか、そんな物騒なことはない」
「必ず…生きて帰って来てね?」
「わかった」
その日、恭真は早退した。
何も出来ない殺し屋じゃないチサは、
ただ…恭真の無事を祈った。
チサも、祈るだけじゃ駄目。
恭真に頼まれた“仕事”をちゃんとしないと。
チサは保健室を出た。


