「文化祭実行委員――どなたか立候補は――?」
 
ざわざわとした教室内、私の壇上からの声はすぐにかき消される。

「文実、立候補はいませんか――」
 
私は声をワントーン上げ、再度言葉を発した。
 
クラスの連中ときたら、居眠りしてる子や、おしゃべりしてる子、お菓子をつまんでいる子でさえ見受けられる。
 
誰も私――古瀬紗生(さき)の声を耳に入れる子なんていない。
 
いや、耳には入っていても、右から左なのだ。誰も面倒なことに巻き込まれたくないといった感じだ。
 
こうやってHRを進める学級委員の役目だって、“成績優秀な古瀬紗生さんがいーと思いまーす”のクラスの誰かの無責任な言葉で務める羽目になったのだ。
 
古巣の爺さん担任は、教室の後ろの椅子に座り、腕を組みこっくりこっくり船を漕いでいる。
 
私は大きくため息をつく。もう諦めた。

「文実は、古瀬紗生でいいですか」
 
この台詞にはみんなが飛びついた。

「いいでーす」

「……HRは以上……」
 
私は教壇から降りた。
 
やれやれ、また厄介な仕事が増える。放課後や休日の自由な時間が削られる。
 
私のため息は、クラスメイトたちのおしゃべりにかき消された。