赤いネイルとピンクのネイル、私はそのふたつの小瓶を持って、自分から教室を出た。
 
今日は、放課後に大地と待ち合わせをしているのだ。

「これって……デート?」
 
私はひとりごちると、カカカ、と全身が熱くなっていくのを感じた。いやいや、その前に決戦があるのだ。私は正々堂々と戦わなくてはならない相手が、いるのだ。
 
いつの日にか、紗生が大地を泣き落としていたという疑いから詰め寄っていた女の子。
 
その子には目を覚ましてもらわないといけないのだ。
 
大地曰く“昔、合コンでちょっと関わった子”だそうだ。大地でも合コンに行くのか、とちょっと嫉妬の炎が燃えたぎったけれど、私も男の子に囲まれて遊んでいたのだ。同罪だ。
 
彼女は片平さんというらしいけれど、自称彼女、といったところか。
 
私は片平さんに云っておかなければならない。大地の彼女は、私よ、と――。
 
カカカ、とまた全身が熱くなった。だから私は、ひんやりとした廊下に大の字に寝転んだ。

「古瀬ぇ……」
 
教室の前のドアで、額に血管を滲ませた古文のジジイが、わなわなと怒りに震えていた。