別に彼が好きだとか、憧れているとかそういうのじゃないけど。
社内一のイケメンが隣りに座るだなんて、こんなチャンス……奇跡に近い。
しかも、こんな風にフランクに声を掛けて貰えるなんて思ってもみなくて……。
欲張りにも私は、もう少し彼と話をしたいと思ってしまった。
でも、さすがに業者にも挨拶を済ませ、既に腰を上げている私は、再び座る勇気がなくて……。
仕方なく、苦し紛れの言い訳を口にする。
「いえ、化粧室へ行こうとしてただけです」
「そう、じゃあ、いってらっしゃい」
「ッ?!…………はい、いってきます」
何?………今の笑顔、爽やか過ぎて目に毒だわ。
なるほどね。
社内一と言われるだけの事はある。
何てこと無い会話だが、彼の笑顔が私の胸をキューッと刺激した。
カスカス状態の私でさえ、反応してしまったじゃない。
私はコートだけそっと扉の脇に置いて、鞄を手にして化粧室へと向かった。
化粧室の鏡に映る自分はまるで別人。
頬が真っ赤に染まっている。
……お酒のせい?それとも、彼のせい?
未だ高鳴る胸に手を添え、必死に気を落ち着かせる。
久しく味わってなかった胸の高鳴り。
三十路になろうとしてるのに、心はまだ乙女のような反応を示す。
こんな顔を誰かに見られたら、絶対からかわれるに決まってる。
私は気を引き締め直して、サッと化粧を直した。
そして、再び席に戻ると――――。



