『お酒の席だ』
『尻の1つや2つ、何てこと無いだろう?』
部長の目がそう訴えていた。
小刻みに顔を振る部長が、エロ親父と同じくらい憎らしく思えた。
噴火寸前の怒りをグッと堪え、必死に笑顔を見繕って……。
「飲み過ぎはお身体に毒ですよ?社長……?」
嫌味も込めて引き攣った笑顔をしたのは、まだ記憶に新しい。
あんな悍ましい出来事、二度とごめんだわ。
私は同じ卓の人に軽く会釈し、コートを手にしてスッと腰を上げ踵を返した。
すると―――――。
突然、一瞬目の前に黒い影が現れ、それと同時に爽やかな柑橘系の香りが鼻腔を掠めた。
私はそれを確かめようと視線を元居た場所に戻すと。
「えっ?」
私は思わず二度見してしまった。
だってだって、その場所には我が社でも不動の人気を誇る、イケメンバイヤー麻生大和(32歳)がいたからだ。
「こんばんは~、お世話になります」
彼は低めの落ち着いた声音で体裁のいい挨拶を口にし、業者に軽く会釈しながら、志帆ちゃんが座っていた場所に腰を下ろした。
そして、ゆっくりと私の方に視線を移したかと思えば、
「帰るの?」
「へ?」
彼がいきなりフランクに声を掛けて来た。
私の手元を確認し、帰るものだと判断したようだ。
こんなチャンス滅多にない!!
いや、二度とないかもしれない!!



